Nishida Koji ブログアーカイブ

No.110 「こだわりからの卒業と授かりもの ~その2~」

hitorigoto

もともと婦人科系が良好とはいえなかった妻が、診療を受けると言い出した。
そのことにより、我々は不妊治療の実態と不妊に悩む多くの存在を知った。
話し合った結果、不妊治療の選択はせず、あくまでも自分の身体の健康を取り戻すことを優先に、生活改善を試みることにした。

私は少しでも妻の気持ちを分かりたいと、己の検査を専門医にお願いした。
結果に異常は認められなかったものの、かつて感じたことのない恥辱感を覚えた。
私の比ではない妻を思っては、心が痛んだ。その分、自然と優しく接するようになれた。

妻は仕事柄、深夜までお酒を飲む機会が多かった。
よって、慢性的な寝不足状態が続き、朝はほとんど口にせず出勤することも珍しくなかった。
お酒好きな我々は、休みとなると食べ歩きや飲み歩きで欲望を満たした。
健康とは程遠い生活だった。

「こんな我々のもとに授かりものが降りてきてくれるはずはない。」
普段、かみ合うことが少ない我々の意見が一致した。

その日から生活を一新した。
朝は6時前後に起床し、基礎体温の測定。朝食は、玄米ごはんをきちんと食べるようにした。
お酒の量を徐々に減らし、睡眠時間の確保を意識した。
仕事のお付き合いも必要最低限に減らし、帰宅が午前様にならないよう努力した。

そんな生活が板につき始めたころ、妻の身体に変化が現れた。
ついに「授かりもの」が、我々のもとに降りてきてくれたのである。


「わたしがあなたを選びました」


鮫島浩二 作
(中山産婦人科クリニック)

おとうさん、おかあさん、
あなたたちのことを、こう、呼ばせてください。
あなたたちが仲睦まじく結び合っている姿を見て、
わたしは地上におりる決心をしました。
きっと、わたしの人生を豊かなものにしてくれると感じたからです。

汚れない世界から地上におりるのは、勇気がいります。
地上での生活に不安をおぼえ、途中で引き返した友もいます。
夫婦の契りに不安をおぼえ、引き返した友もいます。
拒絶され、泣く泣く帰ってきた友もいます。
あなたのあたたかいふところに抱かれ、今、
わたしは幸せを感じています。

おとうさん、
わたしを受け入れた日のことを、
あなたはもう思い出せないでしょうか?
いたわり合い、求め合い、
結び合った日のことを。
永遠に続くと思われるほどの愛の強さで、
わたしをいざなった日のことを。
新しい「いのち」のいぶきを、
あなたがフッと予感した日のことを。
そうです、あの日、
わたしがあなたを選びました。

おかあさん、
わたしを知った日のことをおぼえていますか?
あなたは戸惑いました。
あなたは不安に襲われました。
そしてあなたは、わたしを受け入れてくださいました。
あなたの一瞬の心のうつろいを、わたしはよーくおぼえています。
つわりのつらさの中でわたしに思いをむけて、自らを励ましたことを、
わたしをうとましく思い、もういらないとつぶやいたことを、
私の重さに耐えかねて、自分を情けないと責めたことを、
わたしはよーくおぼえています。

おかあさん、
あなたとわたしはひとつです。
あなたが笑い喜ぶときに、わたしは幸せに満たされます。
あなたが怒り悲しむときに、わたしは不安に襲われます。
あなたが憩いくつろぐときに、わたしは眠りに誘われます。
あなたの思いはわたしの思い、あなたとわたしは、ひとつです。

おかあさん、
わたしのためのあなたの努力を、わたしは決して忘れません。
お酒をやめ、タバコを避け、好きなコーヒーも減らしましたね。
たくさん食べたい誘惑と、本当によく闘いましたね。
わたしのために散歩をし、地上のすばらしさを教えてくれましたね。
すべての努力はわたしのため。あなたを誇りに思います。

おかあさん、
あなたの期待の大きさに、ちょっぴり不安を感じます。
初めての日に、わたしはどのように迎えられるのでしょうか?
わたしの顔はあなたをがっかりさせるでしょうか?
わたしの身体はあなたに軽蔑されるでしょうか?
わたしの性格にあなたはため息をつくでしょうか?
わたしのすべては、神様とあなたたちからのプレゼント。
わたしはこころよく受け入れました。
きっとこんなわたしが、いちばん愛されると信じたから。

おかあさん、
あなたにまみえる日はまもなくです。
その日を思うと、わたしは喜びに満たされます。
わたしといっしょに、お産をしましょう。
わたしがあなたを励まします。
あなたの意思で回ります。
あなたのイメージでおりてきます。
わたしはあなたをこよなく愛し、信頼しています。

おとうさん、
あなたに抱かれる日はまもなくです。
その日を思うと、わたしの胸は高鳴ります。
わたしたちといっしょに、
お産をしましょう。
あなたのやさしい声が、
わたしたちに安らぎを与えてくれます。
あなたの力強い声が、
わたしたちに力を与えてくれます。
あなたのあたたかいまなざしが、
わたしたちに励ましを与えてくれます。
わたしたちはあなたをこよなく愛し、
信頼しています。

おとうさん、おかあさん、
あなたたちのことを、こう、呼ばせてください。
あなたたちが仲睦まじく結び合っている姿を見て、
わたしは地上におりる決心をしました。
きっと、わたしの人生を豊かなものにしてくれると感じたからです。

おとうさん、おかあさん、
今、わたしは思っています。
わたしの選びは正しかった、と。
わたしがあなたたちを選びました。

2008年10月
#110 こだわりからの卒業と授かりもの ~その2~