Nishida Koji ブログアーカイブ

No.108 「さようなら研究室」

hitorigoto

11年と4か月お世話になった「西田弘次研究室」とお別れをする時がきた。

数か月前、研究室がある建物の老朽化に伴い、改築工事が行われることが決定。
当建物に研究室を置く教員は移動を余儀なくされた。
そして今月、前期学期終了とともに、引っ越しプロ集団の手に渡った。
研究室は、思い出に浸る時間さえ禁じられたかのごとく、瞬く間にもぬけの殻と化した。

11年前の研究室入居は、大掃除から始まった。
私の前任者を知る人はこの文章を目にしないとの判断から申し上げるが、ちらかり放題の汚れた部屋だった。
「発つ鳥跡を濁さず」が当然の価値観としてある私にとって、その状況は信じられなかった。
それでも教育者かと、のど元まで出かかったが、その怒りは、これから日々学生と接することができる喜びにすぐに消し去られた。

私の呼びかけに賛同した若者たちが、土日関係なく服が真っ黒になるまで研究室を磨き上げてくれた。
1か月後、研究室は人の声が絶えない明るい空間へと生まれ変わった。

研究室に明日から入れなくなる夕刻、私はこっそりとお酒を持ち込み、静まり返った部屋でお世話になった研究室に献杯を行った。
ほろ酔い気分になったころ、研究室にこう尋ねてみた。
「印象に残っている思い出のトップ3は何ですか?」と。

研究室は微笑みながらこう答えてくれた。

「一つは、先生が初めて学生に手を挙げたときです。先生と学生の涙が印象的でした。
二つめは、翌日が自分の結婚式だというのに先生は徹夜で仕事をしていて、
明け方に一学生が差し入れを持ってきてくれましたね。あれには泣けました。
三つめはやはりアレです。ある年のバレンタインデーのときに、
女子学生達が研究室をピンク一色に装飾してサプライズパーティをやりましたよね。
先生が王子様に着せかえられて女子学生に囲まれていた姿は、ほんとに笑えましたよ。
先生の顔まっかっかでしたから。」

「それから先生、ついでにと言っちゃ失礼ですが、私はあの学生にお礼を言いたいですよ。
常に私のことをきれいにしてくれた彼。
彼が私を磨いてくれる時は、本当に真剣で私の隅々まで磨き上げてくれました。
本当に感謝しています。」

持ち込んだお酒は一時間ほどでなくなった。
それから一時間ほどかけて掃除をし、研究室に最後のお別れをした。

2008年8月
#108 さようなら研究室