Nishida Koji ブログアーカイブ

No.63 「マナー ~お見送り~」

hitorigoto

21歳から23歳までの2年間、外務省在外公館派遣員として、南アフリカ共和国に赴任していた。職務の一つとして、日本から来られる議員他お偉方の空港送迎や視察案内、懇親会など、「便宜供与」と呼ばれる接待業務があった。着任当初から、粗相があってはならぬと、接待に関するマナーについて徹底して仕込まれた。その中で、私の御箱となったものを紹介していきたい。

着任後間も無く、お客人を宿泊先のホテルまでお見送りしたときのことだ。
官用車がホテルに近付いた頃
「このホテルは慣れているから、私を降ろしたらすぐ戻ってくださって結構ですよ」と、お客人。
各地で便宜供与を受けられている方ならではの配慮のお言葉だった。
そう言われてもそうはいかないぞ、と新前者の私はホテルに車が着くや否や、すみやかにフロントから鍵をもらって、お部屋まで案内しようとした。
「いやいや、ほんとにここで結構。後は自分で出来ますから」
「かしこまりました。本日はお疲れ様でございました。どうぞごゆっくりお休みください」
マニュアル通り深々と頭を下げ、「完璧!」と心の中でニヤニヤしながら、車に戻ろうとしたときだ。
「まだ!」隣にいた上司が私の腕を掴んでいる。
上司は、お客人の後姿が見えなくなるまでその方を見つめ、お姿が見えなくなった瞬間、あらためて深々と頭を下げた。
「これがお見送りというもの。憶えておきなさい」
格好良かった。美しかった。

出会った当初から、なんと美しいお見送りをなさる方だと、感心し続けている師がいる。私がひいきにさせていただいている居酒屋「青柳」のマスター・青柳紀則氏(独り言Vol.22ご参照)だ。お客の姿が見えなくなるまで温かく見守られ、最後には深々と頭を下げられる。
すべてのお客に対してこの行為を欠かされることはない。
少々背伸びをしても、お店に「学び子」(ひとりごとNo.20ご参照)達を連れて行くのは、このお見送りのカタチの美しさを見せてあげたいからでもある。

「型(カタ)に血(チ)が通ったとき、初めてカタチになる。だからまずはしっかり型を見に付けなさい」

私を育てて下さった林御夫妻(独り言Vol.16ご参照)のお言葉である。

あれから、18年が経った。
やっと、血が通い始めた感がある。

*居酒屋「青柳」 千葉市稲毛区黒砂台1-11-21 電話:043-247-1505
*外務省在外公館派遣員(http://www.ihcsa.or.jp/hakenin/ご参照)

2004年11月
#063 マナー ~お見送り~